VOL.94「夢をつなぐ 山崎直子の四〇八八日」…お奨めの一冊

2011/07/20

「武士道的思考」内田樹著に、「教育を功利的に語る人は換金性の高い知識や技術を提示すれば子どもは争って学習すると考えている。こうした貧しい人間観が日本の子どもたちの学力低下を助長した」といった記述があった。

正に正鵠を射た言葉で、不況下の昨今この功利的な教育観がますます幅を利かせているようだ。とはいえ私も進路の相談を受けると、専らどこが将来就活に有利かを優先して生徒に対応していた。特に理系大学の付属校で教壇に立っていたせいか敢えて他大文系は薦めなかった。今となっては反省の日々である。

先日、宇宙飛行士の山崎直子さんが出版した「夢をつなぐ 山崎直子の四〇八八日」を読んだ。単なるエリートスーパーウーマンのサクセスストーリーと思って読み始めたがいい意味で完全に裏切られた。

私は濫読で手当たり次第によく読むが久々に心の琴線に触れた一冊であった。

功利や打算優先の風潮が蔓延する昨今、山崎さんのブレルことなく純粋に夢を紡いだ日々の言葉は満天の星のように輝いていた。心の洗われる思いであった。

筆者が高校入試の受験勉強中にBGMがわりのTVで見たチャレンジャー号爆発事故から書き起こされている。1986年1月28日、打ち上げ後わずか73秒で乗員全員の尊い命が失われた。
その7名の中に、妻、母、教師であったクリスタがいた。彼女は宇宙から数百万人の子どもに授業を行う予定だった。クリスタの夢と希望は極東の小さな国の15歳の筆者の心に深く刻み込まれるのである。

1999年に宇宙飛行士候補者試験に合格してから地球上空を238周して2010年4月20日午前9時8分に地上に降り立つまでの4088日の軌跡の記録である。

夫が神経症に罹り離婚の危機にも及ぶ等々幾多の障害もあった。
筆者は「世の中の最大の壁は自分の感情である」と腹をくくり全てを乗り越えた。常に変わることなく娘を愛し夫を敬愛し前向きに夢をつないだ。

若干なりとも功利的な教育観に毒されているといった自覚のある向きは是非お奨めしたい本である。

2011/7/20 彦井 脩

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