VOL.71「季節風 冬」

2011/02/02

重松清の短編集「季節風 冬」の「文庫版のためのあとがき」に「四季の中で最も好きな季節は―と尋ねられたら、ためらいなく『冬』と答える。
天気の中で最も好きなのは―という問いには、ちょっと苦笑しながら『曇り』と答える。
」とあった。

「冬」はともかく「曇り」はいかにも作家らしいなと思った。

文章の終わりに「曇り空を見上げると、雲には微妙な濃淡がある。
雲は決して一色に塗り込められているのではない。
ところどころ、その陰に隠れた陽の気配が感じられるような、ほの明るい箇所もあったりして・・・自分の話も、その明るい雲のように、読んでくださった方の胸に浮かんでいるのなら、とてもうれしい。
」と結ばれている。

冬の日の陽だまりのような温かな十二の物語を読んだ後の、この「あとがき」は正に高価な付録のように感じた。
雲の陰に隠れた陽のような温もりが柔らかく胸に入ってきた。

曇りは晴れと雨の合い間の微妙な移り変わりの中にある。
人の一生もそのほとんどが曇り日のような曖昧な中にあるようだ。

重松清の作品には悪人もスーパーマンのような傑出した人物なども登場しない。
市井のどこにでもいるような極めてフツウの人々がフツウの生活を営んでいる姿が描かれている。
曇り日のような陰影に富んだ生活の中から読者の心が和む一こまを切り取って見せてくれる。

私立の中高では毎年入試問題の作問に苦労する。
出題の傾向や内容を分析すると学校の力が露呈してしまうからである。
中高一貫校の中学入試、特に国語の読解問題に取り上げる文章には著作権も含めて頭を悩ませる。

ここで登場してくるのが重松清の作品群である。
毎年多くの学校がお世話になっている。
短編が多く扱いやすいことや描かれている内容が善意に満ちたものが多く小学生に相応しいからであろう。

他教科の先生方もぜひ数編お読みになってはいかがでしょうか。

2011/2/2 彦井 脩

ご意見・ご感想は彦井 hikoi@careervista.jp まで。