Vol.41「熱血教師」

2010/06/16

常に意欲的でやる気まんまんの教師がいる。

授業準備も万全で、説明するための例からジョークに至るまでしっかり仕込んである。授業中は終始高いテンションで、正に立て板に水で淀みなく流れていく。

生徒たちは、その迫力に圧倒されて呆然として観客状態である。

当然のことながら本人は自信満々で、教科内で行われる研究授業も自ら率先して名乗り出る。参観した同僚たちも、「取り上げた例が適切だった」とか「授業展開の手際が良い」等々、口々に好印象の感想を述べる。本人は我が意を得たりとばかり、ひたすらわが道を邁進する。

さぞかし生徒からの受けも良いだろうと打診してみると、意外に評判は高くない。むしろ新任で大学を出たばかりの、たどたどしい授業をしている先生の方が分かりやすいと評価が高かったりする。

何となく納得できるような気がする。教室という教師と生徒の共有する空間では、相互に影響しあう双方向の力が働かないようでは良い授業は成立しないようである。

たとえどんなに優れた演出家と名優が最高の舞台を作り上げても、観客に受け入れられなければ良い芝居とは言われない。中世に登場した琵琶法師は各地を巡って平家物語を語ったが、彼らは客層や雰囲気に合わせて、若者が好みそうな勇壮な義経の八艘飛びや女性の涙を誘う建礼門院と安徳天皇の入水の場面など演目も調子も巧みに変えたそうである。

教師が授業に備えて綿密な計画を立てるのは必須の条件ではあるが、そこに若干の余裕といった遊びの部分を残しておいた方がよいようだ。優れた授業も一方通行では受け入れられないからだ。

「これあなたのタメだから」というコマーシャルをTVで観たことがある。何事も一方的だったり押し付けがましいのは、一般的な人間関係であってもうっとおしがられるものだ。

2010/6/16 彦井 脩

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