VOL.252 アリガトウ

2015/02/25

もちろん蟻が10匹ではない。「有難う」である。「ダレかに優しくされた時はアリガトウを言いましょう」と幼児は家や保育園、幼稚園で躾けられる。さらに小学生くらいになると「ゴザイマス」を後につけるように言われる。

大人も子どもも一日に何度も使う言葉である。親和的な人間関係を構築する上で最も有効な言葉と言える。ところが公共の場での見ず知らずの間柄だと意外と素直に言えない人がいる。

交番や地下鉄の改札で警官や駅員に色々訊いている人は多いが「アリガトウ」を言っている人は意外に少ないように思う。行き先の場所など分らなくてパニック状態になり感謝の言葉どころではなかったのかもしれない。

電車で席を譲られても、ドアを押えてくれる人がいても無言の人をよく見かける。エレベータの階数を前に乗っている人から訊かれても答えず、黙って自分で階数のボタンを押す人を見たことがある。乗り合わせていた人たちは不愉快を超えて全員唖然とした面持ちだった。20代後半の女性だったが、私のような妄想好きの人間は彼女の人間関係に恵まれなかった半生の様々な場面を思い描いてしまう。

ウッカリ行きずりの人と親しく会話を交わしたら危険だと思うのか?または危険な思いをした経験でもあるのかと妄想してしまう。

「有難う」は形容詞の「有り難し」の連用形「有り難く」がウ音便化したもので「お早く」が「お早う」になったのと同じだ。

「有り難し」は「あることが難しい」、「めったにない」の意味である。自分が受けた行為はめったにないほど「有り難く(う)ございます」という感謝の意味で用いられるようになった。

ごく日常的で平凡な言葉ほど「諸刃の剣」といった恐さを持っている。多くの人が当然言うべき場面で忘れたら「なんて非常識な人間だ」と思われる。

正に「アリガトウ」はそんな言葉である。自分はもちろん生徒達にも使うべき時を逸することがないように伝えたいものだ。

 

2015/2/25 彦井 脩

彦井先生写真②  

彦井 脩

当社アドバイザー。 昭和38年にキリスト教主義の女子校に勤め、その後、平成4年に男子校に転じ平成20年までの45年間教員生活を続けた。その間、塾や予備校の講師、参考書やエッセイの執筆もする。

ご意見・ご感想は彦井 hikoi@careervista.jp まで。