VOL.251 永遠の0

2015/02/18

百田尚樹著の「永遠の0」を遅ればせながら読んだ。この作家の作品は「錨をあげよ」上下、「海賊とよばれた男」上下、「プリズム」「ボックス」と読んできて、満を持して話題の「永遠の0」を手に取った。文庫版もあって助かった。通勤の電車が私の主な読書の場だが、哀しい内容の上に鼻風邪を引いていて涙と鼻水を垂らしながら読んでいたので周囲の乗客からは穢いジイサンと思われたに違いない。

「永遠の0」は零式艦上戦闘機のこととは分っていた。向かうところ敵なしの名機も、この機を上回る性能を持つグラマンやスピットファイアの出現でやがては腕利きの搭乗員と共に特攻機として爆弾を抱えて敵艦に突入する運命をたどる。

世界各地で問題になっているテロと、かつての日本軍の特攻隊は同根と見なされているという。しかし特攻隊は全て志願兵と言われているが、軍隊は「志願する者は一歩前へ」と上官に言われて拒否できる所ではなかった。また全員が国や家族を守るために晴れやかな笑顔で飛び立ったと言われているが、それも自分が辛い様子を見せたら遺族が苦しむと思う隊員たちの精一杯の配慮だったという。決して彼らは洗脳されたわけでも意欲的に我が身を投じたわけでもなく、今世界で起きているテロとは明らかに異なる隊員たちの苦悩があったと描かれていた。

零戦搭乗員の宮部という主人公について、孫の姉弟が当時の様子を知る人々から聴き取るかたちで物語が劇的に展開していく小説だが、今まで私が読んできた第2次大戦を記述した歴史書に類するどの出版物よりも戦局の論理や軍上層部の迷走ぶりは分かりやすかった。日清、日露、第1次大戦に連勝、古くは鎌倉時代の文永、弘安の役まで含めて日本の不敗神話を信じたい気持ちが全国民にあったようだが、第2次大戦ではアメリカに完膚なきまでに打ちのめされた。

敗戦後70年間日本は一度も戦争せずに平和を守った。学習の代償として第2次大戦は大き過ぎる悲劇をもたらしたが戦後史に活かされている。ただその記憶も希薄になりつつある。若き命と共に洋上に散華した零戦の悲劇は永遠に語り継がれるべきで、「永遠の0」は若い世代の人々にお奨めしたい一冊である。

 

2015/2/18 彦井 脩

彦井先生写真②  

彦井 脩

当社アドバイザー。 昭和38年にキリスト教主義の女子校に勤め、その後、平成4年に男子校に転じ平成20年までの45年間教員生活を続けた。その間、塾や予備校の講師、参考書やエッセイの執筆もする。

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