VOL.239 ウソの効用

2014/10/29

ウソをつかずに一生を終える人はいないと思う。「私はウソを一度もついたことはありません」が最大のウソと言われる所以でもある。

旧約聖書に、弟のアベルを殺したカインが「弟は何処にいるか」と訊かれ「知りません」と答えたことが書かれている。これが人類最初のウソとされている。

「ウソつき」は心理学・精神医学では「虚言症・作話症」と診断されるそうだ。

ただ、許されるウソもある。「ウソつきは泥棒の始まり」の対極に「嘘も方便」という言葉がある。これは仏法を分りやすく説くため僧侶のウソである。イギリスにも「white lie」(良いウソ)という言葉があるそうだ。

昆虫や動物の擬態もウソと言えないこともない。親鳥が雛を守るために擬傷行動をして狐などを巣から遠ざける映像を何度か見た。これも相手を騙すという点ではウソである。力関係の弱い側には身を守るためにつかざるを得ないウソもある。

教師は生徒のウソを見抜く力と、ウソと分っていて受け入れる度量も必要である。

イジメの問題はどの学校にもあるが、被害者とおぼしき生徒にいくら訊いても仕返しを恐れて「何もありません」とウソをつく。哀しい結果になってから「いくら調べても何も問題になるようなことは出てきませんでした」といった報告が上がってきたりする。ウソと分っていて聴取を怠った確信犯なら徹底的に糾弾されるべきだが、生徒のウソも見抜けないようなら、教師としての力不足にも問題がある。

長く教師をしていたので生徒の色々なウソに付き合ってきた。宿題を出したからにはチェックしなければならないが、やってこなかった生徒はよくウソをつく。「家で急にオナカが痛くなって・・・」とか「妹の塾に迎えに行かされて・・・」等々。卒業式の直前につまらぬ校則違反の疑惑がかかる生徒もいる。時には心の中で「正直に言うなよ」と願ったりしたことも何度かある。  

女子校では雑談中に、将来これぞという男性からディナーに誘われたら「男の方と二人でお食事は初めてです」とウソでも言うのが礼儀だと話していた。「ワザトラシー」とか言われたが、何年後かに「お陰様で」と感謝されたことがある。

 

2014/10/22 彦井 脩

彦井先生写真②  

彦井 脩

当社アドバイザー。 昭和38年にキリスト教主義の女子校に勤め、その後、平成4年に男子校に転じ平成20年までの45年間教員生活を続けた。その間、塾や予備校の講師、参考書やエッセイの執筆もする。

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