VOL.230 礼

2014/07/30

通勤電車で「渋谷駅でお客さま同士のトラブルがあり対応のため10分ほどの遅れが出ています」といった車内放送を最近よく耳にする。朝の5分、10分は貴重で車中のどの顔も憮然とした面持ちである。

ただ、確かにムカツク人はいる。周囲の人に寄りかかってスマホをしたり、発車間際に「降ります」や「スミマセン」のひと声もなく人にぶつかりながらトビラに突進する人には文句の一つも言いたくなる。虫の居所の悪かった人がつい「何とか言えよ」と突っかかり口論になったり、果ては取っ組み合いになることだってある。

こらえ性のない人が増えたのか些細なことですぐキレる。本人も不愉快だろうし好んでトラブルを起こしたくはないだろう。

私は長く弓道に関わってきた。今は生徒を教えるだけだが礼を重んじる精神は大切にしている。前にも書いたが「武道は生きる力を高める」ことを目的としている。

「相手を倒して生き延びる」のは極めて分かりやすいが、相手が自分より高い技を備えていれば危険に身をさらすことになる。最も安全な道は戦いを避けることである。周囲に敵対する関係をつくらないことだ。そこで「礼」が不可欠な条件になる。

日本人は礼儀正しい国民だと言われ、勤務先とか地元での人間関係を築くマナーは行き届いているのに、街中などの他人の関係になると無作法になる人が多い。欧米のようにジョギング中に見ず知らずの人に微笑みかけたり、「ハーイ」と手を上げたりする必要はないにしても、人にぶつかった時などは「スミマセン」くらいは言ってほしいものだ。言葉だけでなくきちんとした礼も伴うべきである。

近ごろ親も先生も礼について教えないからか、大人になっても礼をきちんとできない人が多い。座礼に至っては時代劇さながらの武張った礼をする人もいる。和室での座礼の機会もなくなったが、教師になったからには立礼も座礼も一度はきちんと覚え直したほうがよい。座礼は手指の位置で指建・折手・拓手・双手・合手などあるが立礼と併せて会釈・敬礼・最敬礼の三つにまとめている。上体の屈折角度・姿勢・視線など確認したい。因みに謝罪の礼は内容にもよるが最敬礼とされる。

2014/7/30 彦井 脩

彦井先生写真②  

彦井 脩

当社アドバイザー。 昭和38年にキリスト教主義の女子校に勤め、その後、平成4年に男子校に転じ平成20年までの45年間教員生活を続けた。その間、塾や予備校の講師、参考書やエッセイの執筆もする。

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