Vol.13「受験」

2009/11/11

高三の担任をしていると、学校にもよるが正規の授業は12月末で終わり、新年から受験態勢に入る。
授業も特別な時間編成になり、高三の生徒のほとんどが登校しなくなる。

年が明けると、センター入試をピークに悲喜こもごものドラマが展開するのである。
生徒からの当落の電話が入る度に教員室は歓声とため息の一喜一憂がくりかえされる。

昔こんな話があった。
一年間浪人生活を送った娘の第一志望校の合格発表の朝を迎えた。
母親は胸のつまる思いで発表を見に出かける娘を見送った。
「すぐ電話ちょうだいね」と後ろから声をかけるのがやっとだった。
本当に辛そうだった娘の一年間を思い返して、もし今年も駄目だったらどう慰めたらいいのか、そんなことばかり考えながら電話を待った。

ところが、とっくに発表時間が過ぎたのに電話はかかってこない。
親の気持ちも知らないでとイライラしていたら、やっと最寄り駅の公衆電話から合格の報告があったという。
帰宅した娘に「なんで、もっと早く連絡をしてくれないの」となじると、こういうことだったという。

自分の番号を見つけて飛び上がり何度も確認して、すぐにお母さんにと思い電話の特設場で受話器を取り上げたら隣から「お母さん駄目だった」というか細い声が聞こえてきた。
そんな子の横で合格の電話はできなかったという。
駅まで歩いても自分の辛かった浪人生活がよみがえり隣の人に重なり、電車に乗っている間もその思いは続いたというのである。

後日、母親は娘の担任を訪ね、合格も嬉しいが、それ以上に優しい娘に育てていただいたことが嬉しく感謝しますと述懐したそうだ。

生徒にとって受験は子どもから大人になる節目の試練となっている。
兵役に代わるものではではないが人格形成に大きくかかわることは確かだ。
その場に直に立ち会わねばならない親も教師もさらなる成長の機会であることを認識しておいてもいい。

2009/11/11彦井 脩

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