VOL.117「踏み出す勇気」

2012/02/08

数日前、都営地下鉄に乗った時のことだ。土曜日のお昼前とあって空いている席がいっぱいあった。どこに座ろうかと前を見たら、漫画雑誌と空のペットボトルと食べ物を包装していた紙の入ったレジ袋が座席に無雑作に置き捨てられていた。

「イヤなものを見たな」という思いで少し離れた席に座ったが不快な思いが心にひっかかったままだった。

二つほど先の駅できちんとした服装の50代後半くらいの紳士が乗ってきた。その人は座席に放置されたレジ袋にペットボトルを入れ、漫画雑誌と一緒に網棚にのせて座り本を読み始めた。

その一連の動きには一切無駄はなく滑らかで極めて自然であった。空いている席は他にも沢山あるのに車内に入って最も近い所にゴミを片付けて座ったのである。

それだけで車内が急にスッキリし、ひっかかっていた心のざらつきも消えた。だがそれだけではなかった。私が乗りかえる駅で降りようしたとき、その紳士も立ち上がり網棚のゴミを取ってドアに向かった。後ろから歩いていくと改札横のゴミ箱にレジ袋とペットボトルを入れて何事もなかったように立ち去ったのだ。

「なんと見事な生き方をしている人だ」と感心させられた。まだ自分が現役の教師だったら生徒に話してやりたかったと思った。自戒の言葉でもあるが、「良いと思うこと」と「それを実行すること」の隔たりは如何に大きく難しいことも併せて話したい。

現役の頃、校内の廊下を急いで歩いている時はゴミがあっても拾わないこともあったし、掲示物が垂れ下がっていても見過ごしたりすることもあった。

今になってはもう手遅れだが、これを機に日頃の生活で良いと思ったことは実行に移すことを心に誓った。とはいえ老人に席を譲ることも面映ゆくてなかなか実行に移せないままに気がついたら自分が席を譲られる歳になっていた。「生徒は教師の後ろ姿を見て育つ」とも言われている。誠に勝手な言い分だが、現役の先生方はためらわずに、良いと思ったことは率先して実行してほしいものだ。

2012/2/8 彦井 脩

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